鉛蓄電池の仕組みとは?構造・用途・リチウムイオン電池との違い

「鉛蓄電池」という言葉を聞いたことがありますか? 実は、私たちの身の回りで古くから活躍している、とてもポピュラーな電池の一つです。特に自動車のバッテリーとして、なくてはならない存在です。では、この鉛蓄電池はどのような仕組みで電気を貯めたり、供給したりしているのでしょうか?この記事では、鉛蓄電池の基本的な仕組みや構造、その特徴(メリット・デメリット)、そして主な用途について、分かりやすく解説します。また、近年注目されているリチウムイオン電池との違いにも触れていきます。
目次
鉛蓄電池とは?最も歴史のある二次電池
まずは、鉛蓄電池がどのような電池なのか、その基本的なプロフィールからご紹介します。
鉛蓄電池の概要と歴史
鉛蓄電池(なまりちくでんち、Lead-acid battery)は、今から160年以上も前の1859年に、フランスの科学者ガストン・プランテによって発明されました。これは、充電と放電を繰り返して使うことができる「二次電池」としては、最も古い歴史を持つものです。
その基本的な構造は、電極として鉛(なまり)とその化合物を使い、電解液として希硫酸(きりゅうさん)を用いるというものです。具体的には、プラス極(正極)に二酸化鉛(PbO₂)、マイナス極(負極)に鉛(Pb)、そして電解液に硫酸(H₂SO₄)を水で薄めた希硫酸が使われます。
発明以来、基本的な原理は変わらないものの、性能や安全性を向上させるための改良が重ねられ、その信頼性の高さと比較的安価であることから、今日に至るまで様々な分野で不可欠な電池として活躍し続けています。
主な用途:自動車から産業用まで
鉛蓄電池は、その特性を活かして幅広い用途で利用されています。代表的な例をいくつか挙げましょう。
- 自動車用バッテリー(補機バッテリー): ガソリン車やディーゼル車、ハイブリッド車のエンジン始動(セルモーターを回す)、ヘッドライトやウインカー、カーナビ、オーディオなどの電装品への電力供給に、現在でも広く使われています。高い信頼性とコストパフォーマンス、そしてエンジン始動に必要な大きな電流を瞬間的に流せる能力が求められるためです。(※電気自動車の駆動用メインバッテリーには、より小型軽量で高エネルギーなリチウムイオン電池が使われます。)
- 産業用バックアップ電源(UPSなど): ビルや工場、病院、銀行のATM、データセンター、通信基地局など、停電が許されない重要な施設において、非常時に電力を供給するためのバックアップ電源(UPS:無停電電源装置)として広く採用されています。高い信頼性とコストが重視される分野です。
- 電動車両の動力源: 電動フォークリフト、ゴルフカート、電動車いすなどの比較的小型の電動車両の動力源としても利用されています。
- その他: 独立型(オフグリッド)の小規模な太陽光発電システムや、船舶用、測定機器用など、様々な分野で使われています。
ただし、近年普及が進んでいる、太陽光発電システムと連携させて家庭で使う「家庭用蓄電池システム」においては、後述する理由から、主流はリチウムイオン電池となっており、鉛蓄電池が新規で採用されるケースは少なくなっています。
鉛蓄電池の基本的な仕組み:充放電の化学反応
では、鉛蓄電池はどのようにして電気を蓄えたり(充電)、取り出したり(放電)しているのでしょうか? その基本的な仕組みは、電極と電解液の間で起こる化学反応に基づいています。
鉛蓄電池の構成要素
鉛蓄電池が機能するために必要な主な材料(構成要素)は、以下の4つです。
- 正極(プラス極): 主な材料は二酸化鉛(PbO₂)です。電気を通す格子状の鉛合金の骨組みに、二酸化鉛の粉末をペースト状にして塗り固めた構造が一般的です。
- 負極(マイナス極): 主な材料は、スポンジのように多孔質になった鉛(Pb)です。こちらも正極と同様に、鉛合金の格子に鉛の粉末を塗り固めた構造が一般的です。
- 電解液: 希硫酸(H₂SO₄)、つまり硫酸を精製水で薄めた液体です。この液体の中で、電気を帯びた粒子であるイオン(水素イオン H⁺ や硫酸イオン SO₄²⁻)が移動することで、化学反応が進み、電気が流れます。
- セパレーター(隔離板): 正極と負極が直接接触してショート(短絡)するのを防ぐための、薄い仕切り板です。電気を通さない絶縁性の材料(例:微多孔性のポリエチレンなど)で作られていますが、イオンは通過できる小さな孔がたくさん開いています。
これらの正極板、負極板、セパレーターが交互に重ねられ、希硫酸の電解液とともに容器(電槽)に収められています。1つのセル(単電池)で約2Vの電圧を発生させることができ、例えば自動車用バッテリー(12V)では、このセルが6個直列に接続されています。
放電(電気を取り出す)時の化学反応
鉛蓄電池に電球やモーターなどの負荷を接続し、電気エネルギーを取り出す「放電」時には、電池内部で以下のような化学反応が同時に進行します。
- 負極(-)での反応: マイナス極の鉛(Pb)が、電解液中の硫酸イオン(SO₄²⁻)と反応して、硫酸鉛(PbSO₄)という白い物質に変化します。このとき、電子(e⁻)が2個放出されます。 化学式: Pb + SO₄²⁻ → PbSO₄ + 2e⁻
- 正極(+)での反応: プラス極の二酸化鉛(PbO₂)が、電解液中の水素イオン(H⁺)と硫酸イオン(SO₄²⁻)、そして負極から外部回路を通って流れてきた電子(e⁻)を受け取り、こちらも硫酸鉛(PbSO₄)に変化するとともに、水(H₂O)が生成されます。 化学式: PbO₂ + 4H⁺ + SO₄²⁻ + 2e⁻ → PbSO₄ + 2H₂O
この一連の化学反応によって、負極から正極へと電子が流れ(電流が流れる)、外部に接続された機器に電力が供給されます。放電が進むにつれて、正極と負極の両方の表面が硫酸鉛で覆われていき、電解液中の硫酸が消費されて水が増えるため、電解液の濃度(比重)は低下していきます。
充電(電気を蓄える)時の化学反応
放電して電気を取り出した後の鉛蓄電池に、外部から逆方向に電流を流して電気エネルギーを与える「充電」を行うと、放電時とは逆の化学反応が起こり、元の状態に戻ろうとします。
- 負極(-)での反応: 放電によって生成された硫酸鉛(PbSO₄)が、外部から供給された電子(e⁻)を受け取り、電解液中の水素イオン(H⁺)と反応して、元の鉛(Pb)に戻ります。この過程で硫酸イオン(SO₄²⁻)が電解液中に放出され、硫酸(H₂SO₄)が再生されます。 化学式(簡略化): PbSO₄ + 2e⁻ → Pb + SO₄²⁻
- 正極(+)での反応: こちらも硫酸鉛(PbSO₄)が、生成されていた水(H₂O)と反応し、電子(e⁻)を外部回路へ放出して、元の二酸化鉛(PbO₂)に戻ります。同時に水素イオン(H⁺)と硫酸イオン(SO₄²⁻)が電解液中に放出され、こちらも硫酸(H₂SO₄)が再生されます。 化学式(簡略化): PbSO₄ + 2H₂O → PbO₂ + SO₄²⁻ + 4H⁺ + 2e⁻
このように充電を行うことで、正極と負極の活物質(電気を蓄える物質)が元の状態に回復し、電解液の硫酸濃度(比重)も上昇して、再び放電できる状態になります。鉛蓄電池は、この化学反応が可逆的(元に戻れる)であることを利用して、電気エネルギーを繰り返し蓄えたり、取り出したりすることができるのです。
鉛蓄電池の特徴:メリットとデメリット
長い歴史を持ち、広く使われている鉛蓄電池ですが、他の種類の二次電池と比較した場合、どのような長所と短所があるのでしょうか? 主なメリットとデメリットを整理してみましょう。
メリット
- 価格が比較的安価: 製造技術が確立されており、主原料である鉛も比較的安価なため、電気を貯める容量(Wh)あたりのコストが、リチウムイオン電池など他の二次電池に比べて安いことが最大のメリットです。初期費用を抑えたい場合に有利な選択肢となります。
- 高い信頼性と安全性: 160年以上の長い歴史の中で改良が重ねられてきた技術であり、動作が安定していて信頼性が高いとされています。また、材料の性質上、リチウムイオン電池で懸念されるような熱暴走のリスクが低く、比較的安全性が高い電池と言えます。
- 大電流放電特性: 自動車のエンジン始動(セルモーター駆動)のように、瞬間的に非常に大きな電流を流す必要がある用途に適しています。
- 確立されたリサイクル技術: 使用済みの鉛蓄電池から鉛を高効率で回収し、再びバッテリーの原料として再利用するリサイクル技術と社会システムが世界的に確立されています。これにより、資源の有効活用と環境負荷の低減が図られています。
- 広い動作温度範囲: 低温から高温まで、比較的広い温度範囲で性能を発揮できます(ただし、極端な低温・高温下では性能が低下します)。
デメリット
- エネルギー密度が低い(重くて大きい): 同じ量の電気を貯めるために必要な「重量」や「体積」が、リチウムイオン電池などと比較して大きいことが、鉛蓄電池の最大の弱点です。エネルギー密度(単位重量あたりまたは単位体積あたりに蓄えられるエネルギー量)が低いため、小型軽量化が求められる用途には不向きです。これが、携帯電話やノートパソコン、そして近年の家庭用蓄電池システムで鉛蓄電池が採用されにくい主な理由となっています。
- サイクル寿命が比較的短い: 充放電を繰り返すうちに、電極(特に正極)が劣化したり、硫酸鉛の硬い結晶(サルフェーション)が生成されたりして、徐々に性能が低下していきます。繰り返し充放電できる回数(サイクル寿命)は、リチウムイオン電池と比較して短い傾向があります(ただし、産業用の長寿命タイプも存在します)。
- 自己放電率が大きい: 使わずに保管しているだけでも、内部の化学反応によって自然に電気が失われていく「自己放電」の割合が、リチウムイオン電池よりも大きい傾向があります。長期間放置すると、充電が必要になります。
- メモリー効果(限定的): (ニカド電池ほどではありませんが)完全に放電しないうちに充電を繰り返すと、見かけ上の使用可能容量が減ってしまうような現象(メモリー効果に似た電圧低下)が起こることがあります。
- 電解液の管理(従来型の場合): 従来の開放型バッテリーでは、充電中に水が電気分解されて減少するため、定期的に精製水を補充したり、電解液の比重を測定したりするメンテナンスが必要でした。(ただし、現在主流の密閉型(MF: Maintenance Free)バッテリーでは、この手間は大幅に軽減されています。)
- 鉛の使用による環境・健康懸念: 主原料である鉛は有害物質であり、製造時や廃棄時の環境負荷、健康への影響が懸念されます。(ただし、前述の通り、高度なリサイクルシステムによってリスクは管理されています。)
家庭用蓄電池としての鉛蓄電池:なぜ主流ではない?
自動車用バッテリーとしては今なお現役の鉛蓄電池ですが、太陽光発電と連携させて家庭で使う蓄電池システムとしては、なぜリチウムイオン電池が主流になっているのでしょうか? その理由は、主に鉛蓄電池のデメリットと、リチウムイオン電池の進化にあります。
エネルギー密度の低さ(サイズ・重量の問題)
家庭用蓄電池として鉛蓄電池が普及しにくい最大の理由は、その「重くて大きい」という物理的な制約です。 家庭内に設置する場合、設置スペースは限られています。同じ蓄電容量(kWh)を実現しようとした場合、鉛蓄電池はリチウムイオン電池の数倍の重量と体積を必要とすることがあります。例えば、一般的な家庭用として5kWh~10kWh程度の容量を確保しようとすると、鉛蓄電池では非常に大型で重くなり、設置場所の確保が困難になったり、床の補強が必要になったりする可能性があります。また、搬入や設置工事も大変になります。住宅設備として求められるコンパクトさや設置の容易さという点で、鉛蓄電池は不利なのです。
サイクル寿命の短さ
家庭用蓄電池は、太陽光発電システムと連携して、昼間に充電し夜間に放電する、といったサイクルを毎日繰り返すことが想定されます。そのため、繰り返し充放電にどれだけ耐えられるかを示す「サイクル寿命」が非常に重要になります。鉛蓄電池のサイクル寿命は、種類や使い方にもよりますが、一般的に数百回から数千回程度とされています。一方、現在主流のリチウムイオン電池(特にリン酸鉄リチウムイオン電池など)は、数千回から1万回を超える長いサイクル寿命を持つ製品が多く登場しています。毎日使うことを考えると、サイクル寿命の長さは、蓄電池が実質的に何年使えるか、交換頻度はどうか、といった点に直結するため、長寿命のリチウムイオン電池の方が家庭用としては適していると判断されることが多いのです。
リチウムイオン電池の高性能化と低価格化
そして決定的な要因となったのが、リチウムイオン電池自体の急速な進化です。携帯電話やノートパソコン、電気自動車(EV)などの普及に伴い、リチウムイオン電池の研究開発は飛躍的に進み、エネルギー密度(小型軽量化)、サイクル寿命、充電速度といった性能が大幅に向上しました。同時に、量産効果などによって、その製造コストも徐々に低下してきています。
もちろん、現時点でも容量あたりの価格では鉛蓄電池の方が安い場合が多いですが、その性能差(小型軽量、長寿命、高効率など)と価格差を天秤にかけると、長期的な運用や設置の利便性を考慮した場合、家庭用蓄電池としてはリチウムイオン電池の方が総合的に見てメリットが大きい、と判断されるようになったのです。これが、現在の家庭用蓄電池市場でリチウムイオン電池が主流となっている大きな理由です。
まとめ:鉛蓄電池の仕組みと特徴
今回は、最も古くから使われている二次電池である鉛蓄電池について、その仕組みや特徴を解説しました。
- 鉛蓄電池は、正極に二酸化鉛、負極に鉛、電解液に希硫酸を用いた二次電池。
- 充放電は、電極と電解液の間での可逆的な化学反応によって行われる。
- メリットは、安価、高信頼性・高安全性、大電流放電特性、確立されたリサイクル技術など。
- デメリットは、重くて大きい(低エネルギー密度)、比較的短い寿命、自己放電が大きいなど。
- 家庭用蓄電池としては、サイズ・重量、寿命の観点から、高性能化・低価格化したリチウムイオン電池が主流となっている。
鉛蓄電池は、自動車用バッテリーや産業用バックアップ電源など、その特性が活かせる分野では今なお重要な役割を担っています。その基本的な仕組みを知ることは、他の種類の電池への理解を深める上でも役立つでしょう。
鉛蓄電池に関するQ&A
鉛蓄電池について、よくある質問とその回答をまとめました。
Q1. 鉛蓄電池は家庭用には全く使われていないのですか?
回答:主流ではありませんが、ゼロではありません。非常に低コストでシステムを組みたい場合や、オフグリッド(電力会社の系統に繋がらない)の小規模太陽光発電、UPS(無停電電源装置)のバックアップ用など、限定的な用途では使われることがあります。しかし、一般的な系統連携型の家庭用蓄電池システムでは、新規導入で鉛蓄電池が選ばれることは稀です。
Q2. 自動車のバッテリーはなぜ鉛蓄電池が多いのですか?
回答:①安価であること、②エンジン始動に必要な大電流を流せること、③低温でも性能が安定していること、④信頼性が高いことなどが理由です。EVの駆動用にはリチウムイオン電池が使われますが、ガソリン車等の12Vバッテリーとしては、依然として鉛蓄電池がコストと性能のバランスで最適とされています。
Q3. 鉛蓄電池はどのくらい持ちますか?(寿命)
回答:用途や種類によりますが、一般的な自動車用バッテリーで3年~5年程度、産業用の長寿命タイプで10年以上です。充放電サイクル寿命は数百回~数千回程度が目安で、リチウムイオン電池よりは短い傾向があります。
Q4. 鉛蓄電池の充電には時間がかかりますか?
回答:充電電流や放電深度によりますが、一般的にリチウムイオン電池と比較すると満充電までに時間がかかる傾向があります。特に急速充電性能では劣りますが、適切な充電器を使えば実用的な速度で充電できます。
Q5. 鉛蓄電池は環境に悪いですか?
回答:主原料の鉛は有害物質であり、不適切な廃棄は環境汚染に繋がります。しかし、鉛蓄電池は非常に高いリサイクル率を誇り、使用済みバッテリーから鉛を回収・再利用する社会システムが確立されています。適切に回収・リサイクルされれば、環境負荷は大幅に低減されます。
この記事の監修者

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